NOeSIS-嘘を吐いた記憶の物語- 憂姫の章:私の話

二週目やっても結局何も謎が解決してる気がしないw
羽化編が待ち遠しすぎるw

憂姫の章:私の話

幼き心

見つけた猫を、墓石の下へ。

燻る違和感
  • 連続自殺事件の後、先輩にあっけなくフラれたらしい時雨。そしてこよみとの関係も人形の一件で元に戻ったらしい時雨。
    • 千夜の件はまあ遥のことがあったとしても、こよみの件はほぼパーフェクトなハッピーエンドだったはず。なぜ巻き戻す必要があったのか?ひょっとして誰かに巻き戻させられているのか?
一夜と千夜
  • 千夜を無視して、から揚げにマヨをかけるこよみ。

マヨがオッケーなわけあるかっ!!
親鳥に雛鳥をぐちゃぐちゃの酢漬けにしたものをぶっ掛けるなんて、オマエに良心ってもんは無いのかよっ!!

確かにそうだよなww

【時雨】
そういや一夜先輩、最近簡単に入れ代わってるけどさ――。
もう手帳とか見なくても、記憶は引き継げるのか?
【千夜】
――まだ、それは無理よ。

瞬きする間に、彼女たちは入れ替わる。
まるで手品みたいだった。

【千夜】
長い話なんかはね、メモを介さないといけない。
でも、このくらいの短い感覚なら――。
【千夜】
なんとなくね、相手に違和感を覚えさせずに入れ替わることが出来るようになったの。

前章とかで読者が感じるだろう疑問に対してそれとなく答えを出す。すごいな。

【千夜】
私の知る限りでは、一夜は二人いたの。
でも――最近、一人に統合されてしまった。
【千夜】
多重人格という病気が、治ってきているのね。

    • いつか一夜が、病気呼ばわりするなと言っていたような。
終わらない事件
  • 最近原因不明の頭痛に苦しんでいるらしい千夜。
  • 遥はなぜ女バス部員を殺したのか。今年の4月半ば、生徒会の意見箱に女バスのイジメ問題の投書があった。だが、そんな事実はなかった。
  • 千夜とこよみは複数犯の可能性を考えている。

【千夜】
遥さんは最後の夜、雑居ビルに仕掛けられた硫化水素の存在を、知らなかった。
【千夜】
あのビルはエレベーターと階段が隣接していて、非常階段は朽ち果てて、その機能を果たしていない。
【千夜】
あの建物から外に出ようとした時、必ず階段を通る。
その時にエレベーターを遠隔操作させて、必要な階で扉を開ければ、生き残った人間を始末出来た――。
【千夜】
もしも――。

そこで、先輩は一呼吸置く。
【千夜】
もう一人、犯人がいたとするなら……。
【千夜】
どうして、私達をあの時殺さなかったのか……。
【千夜】
エレベーターに仕掛けられていたのが、硫化水素ではなかったのか――。
【こよみ】
殺したらマズい人間が、混じってたんじゃないですか?

冷静に、こよみは凍るような冷たさで言葉を吐く。

【こよみ】
実際エレベーターに仕掛けられていたのは、私を眠らせたのと同じ薬品だった。
【こよみ】
硫化水素ならば、全ての人間を殺してしまう。
でも、麻酔薬ならば――。
【千夜】
殺す人間を選択出来る、という事ね。

【千夜】
もしもう一人犯人がいるなら、その人は――自分の手を、汚したくないみたいね。
ふふ、もしくは……。
【千夜】
何か、人を殺すことが出来ない事情があるんじゃないかしら?

    • 千夜とこよみの中ではもう憂姫が犯人という結論が出てたんだな。
  • 遥ゾンビの話。

【千夜】
この学校はね、夜の9時を過ぎると自動的に警備システムが働くの。
【千夜】
その警備の目を掻い潜って進入するだけでも難しいのに、各階にある熱探知センサーにも引っかかっていない。
【千夜】
これが何を意味するか、分かって?
【時雨】
熱探知を回避――ねぇ……。
【千夜】
体温無いのよ、コイツ。

    • その人形いつの間に作ったんですかw
一夜の説教

【一夜】
選ばないということは、優しさではありません。
【一夜】
あなたは誰も選ばなかったから、ここまで事が進んでしまった。
もし誰かを選んでいたら――結果は、もう少し違っていたかも知れません。
【一夜】
あなたは目覚めさせてしまった。
怪物として残っていた、幼き心を――。

憂姫
  • 憂姫の首に輝く黄色のハートのペンダント。高校入試の合格祝いに、時雨が贈ったもの。それを選んだときのこよみの話を始めて、憂姫を怒らせてしまった。

【こよみ】
普段ギャルゲーやっているのは、一体何のためだよ?
どーしてこう、鈍いかなぁ――。

ギャルゲーにそんな捉え方があるとか予想外w

  • 遥のことを無条件に憎むような素振りを全く見せない時雨に対して、

【こよみ】
時雨はやっぱり、甘いよ――。
【時雨】
そう言われると、思っていたよ。

トン――と、胸の中にこよみが被さる。
彼女の体重と体温が、オレの上半身に掛かった。

【こよみ】
きっと、あの子は救いを求めてる――。
【こよみ】
助けてあげて、欲しいんだ……。

    • 「あの子」って憂姫のことなんだろうな。
遥と憂姫
  • 飼い猫を無残に殺された遥。そこに涙を零す少女。

【私】
わざわざ私に、猫を飼っているか聞いて来たヤツがいる。
きっと、そいつが……。
【少女】
確かに、事故としては不自然な亡くなり方です。
こんなヒドイ仕打ちをした人物に、心当たりがあるのですか?
【私】
最近、私みんなから無視されてた気がするんだ。
誹謗するようなメールもたくさん、意味不明なアドレスから送られて来ていた。
【私】
でもね、ソイツ――だけは、味方だと思っていた。
親友だと――思ってた――。
【私】
だから猫を飼っているか聞かれた時、私は教えてしまったんだ……。

    • こよみの章の、ひどく最初の方で、既にフラグは立ってしまっていた。しかし憂姫は誹謗のメールまで出していたのか。最初から遥を使うつもりだったんだな。。

【私】
足の爪に、繊維がついてる。
この茶色い繊維は、ウチの学校の制服のスカートだと思う。

    • こよみの章で、こよみのスカートが不自然に破れたのと関係があるのだろう。が、一体どうやって?

【私】
犯人はスカートに何かしら、補修を施していると思う。
そして普通なら繊維が猫に付着していたなんて、考えもしない。
【私】
スカートの予備を持っているヤツは少ない。
私は意地でも明日、犯人を見つけ出す。

    • それで時雨がスカートの話をした時にこよみを睨んだのか。
殺人

【私】
結局飼い猫を殺したのは、私の親友だったよ。
ああ、勝手にっ、私がっ、親友だと思っていた女さっ!!
【私】
私の心を叩き潰して、自分の男とイチャつくのを見せ付ける、そんな最低な人間だったよッッッ!!

  • 手際よく死体の後処理を済ませる少女。そして指輪を私に握らせた。指輪から流れてきたのは凄惨な殺人の記憶。全部目の前の少女がやったことではないのか。
試験勉強
  • 期末試験のため憂姫から勉強を教わる、はずだったが、変なすごろくしてるwそして時雨のモノマネターンw

【時雨】
うっかり電話がアメリカ国防総省に繋がってしまった、昼12時の司会者の顔――。
【こよみ】
――もしも、サングラス掛けただけだったら。
コロスよ、時雨――。
【憂姫】
ど、どうでもいいからさ――。
しようよ、勉強……。
【こよみ】
だめだよ、時雨がグラサンオールバックのモノマネを決めるまでは。
【時雨】
そうだぞ、遊んでいる場合じゃないんだぞ、こよみ。
【こよみ】
やれよ、時雨。
モノマネ――。
【時雨】
XB−70バルキリー爆撃機がぁ、F−108レイピア戦闘機を引き連れてぇ、明日来てくれるかなぁー?
【こよみ】
――チッ。
つまんねーな、コイツ。

舌打ちをしながら、スゴロクを片付け始めるこよみ。

こよみさん怖いww

食卓のお好み焼

【こよみ】
3等分って、難しいよね。
半分だったら、簡単なのに――。

――半分か。

【時雨】
そういう寂しい事言うなよ、こよみ。
【こよみ】
あ……っ!?
ごめん、そういう訳じゃ――。
【時雨】
ずっと3人でやって来たんだし、これからも仲良くやっていこうぜ?
【憂姫】
――。
【こよみ】
時雨、あのね――。
【時雨】
――ん?
【こよみ】
なん――でもない――。

勘だった。

何かコイツ等オレに――隠し事をしている。

    • 憂姫がもう長くないということかな。。
連続通り魔の犯人
  • 教祖らしき男はダイナマイトを巻いて飛び降りた。そして男の指には、黄金色に輝く指輪が嵌められていた。

【千夜】
私の知る限りでは、黄色、そんなもの――存在しない。
【千夜】
そもそも赤い本というのも、5年前に一度、見たきり――だったから。詳しいことは分からないけどね。

事件

【千夜】
最初に通り魔事件の話を聞いた時、私はそれが――本が起こしているんじゃないかと――疑った。
【千夜】
あれは持ち主に幻覚を見せたり、周囲の空間を歪めてしまう、そんな危険な能力があったから。
【千夜】
通り魔事件の調査に乗り出そうとした時、私の前に時雨君が現れた。
【千夜】
すごいタイミングだったわ、まるで――こっちに本がありますよ――って、教えてくれたみたいに。
【千夜】
遥さんは幽霊を、そして時雨君は――化け物を見つける――力があった。
【千夜】
そんな特殊な能力があったばかりに、遥さんは心を無くし――時雨君は、何度も死に掛けた……。
【千夜】
私達は事件に気に入られている、そう――思わない?
【時雨】
思いたくもねーな。
なんだよ、遥の一件が片付けば、また――新しいのに巻き込まれるってのか?
【千夜】
そう、今までは私が味方だったから解決出来た。
そして遥さんの事も、私があなたの味方だから――解決出来る――。
【千夜】
でも、次はどうかしら?
私があなたを守ってあげられる保障は、どこにも無いわ……。
【時雨】
大した自信だな、オマエ。
【千夜】
もし、私達が敵同士になった時――。
【千夜】
その時は――迷わず、私の事を殺すのよ――。
【千夜】
そうしなければ時雨君?
あなたが、死ぬのだから……。

    • 時雨と出会ったとき、あんた自殺しようとしてなかった?w
    • この台詞は一夜の言葉か、千夜の言葉か。

【時雨】
うるせぇ。
とにかく、遥だけは何とか、してやりたいんだ――。
【千夜】
ふふ――時雨君は、あなたを殺そうとした人間にまで、優しいのね。
【千夜】
それならね、きっと、今回の件も――大丈夫。
【千夜】
あなたならば、あの子を――救うことが出来る――。

    • 千夜の言う「あの子」も憂姫のことなんだろう。
指輪の虜
  • 私は指輪の記述を読んでいない。それを知った少女は笑う。それに私は形成の逆転を感じるのだった。
生物学
  • 一夜から細菌培養を教わる憂姫。

【一夜】
懐かしいな――、こういう初歩的な事。
私が初めてショウジョウバエを飼育したのは、6歳の時でした。

――コイツ、暗い。

【一夜】
世代交代をたった一月でこなすんですっ!!
ラットだったら3年かかるんですよっ!?

【時雨】
その前に先輩、ネズミ触れないだろ――。

【一夜】
あはは、それは千夜ですよ。
私が触れなかったら、研究者になれてない訳じゃないですか。

最後が二重否定だと思って引っかかったんだけど、「私って○○じゃないですかぁ」っていう最近流行りの言い回しだった。

【憂姫】
お兄ちゃん、知らないの?
一夜先輩はね、分子生物学の権威なんだよっ!?
【一夜】
後、生物物理学も追加しといて下さいね。

ヘンタイ二人

【憂姫】
何がどう権威なのか分からないけど、二人ともヘンタイだって事は分かったよ。
【憂姫】
てゆかお兄ちゃん、見下されるの好きだね――。
【一夜】
憂姫ちゃん、分かって――。
それはとってもご褒美なの――っ!!
【一夜】
それに――大人になってから、女子高生から叱られるのって――。
【一夜】
お金が必要なんですよっっっっっ!?

【一夜】
ズルい、時雨君っ!!
私だって妹からヘンタイって言われたり、蹴られたりしたいのにっ!!
【一夜】
昔は千夜がちゃんとやってくれたのに、今は頼んだってやってくれないんですから――!!

【時雨】
なんだよ濡れた髪が見たいって、自分の身体だろ――?
【一夜】
誤解ですっ!!」
私と千夜は、元々――っ。
【一夜】
――こほんっ。
脱線したので、続きをしましょう。

    • 昔の千夜というのは、身体が別々だったとき、つまり一夜が姉として生きていた時の話なんだろう。
指輪を使う者、使わない者

【私】
だからお前は、指輪を使わなかった。
【私】
使えば最後、破滅すると知っていたから。
【私】
こよみの人形、あれはお前の仕業だろう?
【私】
結局、お前は指輪を使うという踏ん切りが、最後まで付かなかった。

    • こよみの人形が憂姫の仕業というのはどういうことなのか?両親を殺したことを言っている訳ではなさそうだが?こよみの指輪は憂姫が渡したということだろうか?

【少女】
わたしは、わたしだけの兄が――欲しいんです。
【少女】
飼い猫を殺されて復讐に燃えるあなたと、邪魔者を消して欲しいわたし。
【少女】
利害は、一致していますよね?

【少女】
あなたは、わたしの兄まで――ッッッ!?
【私】
ハハハ、ようやく感情が出たな。
そうだよ、だから雪崩を使ってやったんだ。
【私】
もしページそのままの順で、首吊りを実行していたらどうなっていた?
【私】
自殺は首吊りで終わる。
殺人の項目を、いったい誰に使わせる?
【私】
――そう、こよみだよ。

    • つまり遥は、指輪の記述を知っていた。以前知らないフリをしていたのは、憂姫に油断させるため、か?

【私】
こよみに、私を殺させるつもりだった。
【私】
そのためには、偽のターゲットが必要だ。
だからお前は、生徒会に女バス内の虐めの投書をした。
【私】
こよみに、生徒会長を殺させましょう――。
それでアイツは捕まって、メデタシメデタシ。
【私】
そう、甘く囁いたはずだ。
【私】
実際、それで生徒会長は調査に乗り出したしな。
あの生徒会長は勘がいい。
【私】
私を殺したこよみを、すぐに捕まえるだろう――。
【少女】
わたしは、生徒会に投書なんてしていません。
【私】
お前以外、誰がいるんだよ?
わざわざ生徒会長の筆跡を真似てまで……。
【私】
お前があんなことしなけりゃ、警察だってここまで動かなかった。
【私】
あんな、わざと疑って下さい、みたいな事しなけりゃさ。
【少女】
どうして、わたしがそんな――っ。
簡単に尻尾を出すような事をっ。
【私】
へー、ついに本音が出たな。

    • 憂姫が本音を出してまで否定するということは、本当に憂姫がやったのではないような気がする。もし本当に一夜が投書したものだったとしたら?

【私】
でも一つ、誤算があった。
【私】
生徒会長と時雨が、まさかくっつくなんてな――。
【私】
笑っちまうよな――。
お前の努力、全部無駄になっちまう。
【私】
安心しろよ。
私がこよみも生徒会長も、殺してやるよ。
【私】
次は絶対に、上手くやる。
【私】
だからエレベーターだけは、使えなくしといてくれよ。

    • 遥はエレベーターを使えないことは知っていたが、その仕組みである硫化水素のことは知らなかった。

【少女】
……一瞬。
今のわたしには、一瞬があればいいんです。
【私】
ああ、そうか……。
お前って、そうだもんな。
【私】
歩き方見れば分かるよ。
よくそこまで重い病気にかかって、生きてるよなお前。

    • 病気?骨折とは無関係に、彼女は命の危機にあるというのか?
事故の記憶
  • 憂姫の怪我の原因は飛行機事故だと言う。そしてそのことを何百回と聞いているはずなのに、時雨はすぐに忘れてしまう。まるで記憶に鍵がかかっているみたいに。

――5年前。

偶然とは言え、重なりすぎている……そんな気がした。

憂姫は事故に遭い、こよみは両親を亡くし、先輩は姉と死別した。

そしてオレは――その殆どの記憶を失くしている。

時雨「ちゃん」
  • 先輩のお願い事をなんでも聞く。そんな約束をしていた。そのお願いとは、女装だったw

【一夜】
時雨君っ、もうちょっと女の子してください。
そうですね――。
【一夜】
「恋は盲目だから、恋する私は自分がしている愚かな行いに気がつかないの」
――とか、そういう喋り方をしてくださいねっ♪

なんでそこでベニスの商人ww女の子っぽさと無関係w

  • 女装デートの途中で憂姫に見つかり蔑まれる。

【一夜】
ゆきゆき?
先輩に向かっても一言、ヘンタイって、冷たく見下して欲しいなぁ〜♪

しかし、隣には女装したオレよりも遥かにスケールの大きい、ヘンタイがそびえていた。

【一夜】
時雨君ばっかり、ズ・ル・イ・ぞ。

そう言って、憂姫の鼻先をツンと突っつく一夜先輩。
完璧に仕草がオカマのものだった。

【一夜】
さあ、ゆきゆき。
こんな私を、見下して♪

【憂姫】
――兄をあなたみたいなヘンタイに、渡すわけにはいきません。

【こよみ】
じゃあ、上手くやるんだよ〜。

    • こよみの言葉は、一体誰に向けたものだったのか。
憂姫との帰り道

【憂姫】
どうしてわたしは、いつも上手くいかないんだろう――。
【時雨】
憂姫はよくやってるよ。
兄貴自慢の、優秀な妹だ。
【憂姫】
そういう事じゃ、無いよ。
こよみは料理作れるし、掃除だって得意。
【憂姫】
こよみ、すごく頭良いんだよ。
だけど――悪いフリをしている――。
【憂姫】
最初はどうしてそんな事をしているのか、理解出来なかった。
【憂姫】
でも、今なら分かるんだ――。
【憂姫】
こよみはそうやって、お兄ちゃんとの――接点――そんなものを作っていたんだ。

【憂姫】
あ、あのさ……。
明日からは、ずっと二人で帰るって、ダメかな?
【時雨】
別に、構わないけど?
ただ授業終わるの、タイミング合うかな。
【憂姫】
わ、わたしが合わせるからっ。
お兄ちゃんも――合わせてよ。
【時雨】
まあ、いいけど。
【憂姫】
絶対、絶対だよっ!?
【憂姫】
明日から――お兄ちゃんと――……。

    • すごく切ない。。
憂姫の気持ち

【憂姫】
わたしは――お兄ちゃんの事が好き――。
【憂姫】
それは、兄妹としての好きじゃなくて――。
【憂姫】
異性として――好き……なの――。
【憂姫】
自分でも、こんな事は許されないって、分かってる――。
【憂姫】
お兄ちゃんから嫌われちゃうかもって、思ってる。
でも――自分の気持ちに、嘘……吐けないんだ――。
【時雨】
ばか、オレが憂姫の事――嫌いになんか、なるわけないだろ。
【時雨】
でも一つ、教えてくれ。
【時雨】
憂姫は、どうしてこんなに――冷たいんだ――?
【憂姫】
……。

憂姫は、無言だった。

兄としてではなく、好き。

彼女が強引なまでに、自分の想いを伝えて来た意味が――なんとなく、分かってしまった。

【時雨】
こよみも、知ってたんだな……。
【時雨】
だからアイツ、オレ達に――気を使っていた……。

  • そんな時雨たちの部屋を、遥ゾンビがじっと見ていた。
VS遥ゾンビ

【千夜】
センサーをまず校舎外に仕掛ける。
【千夜】
その後2階、3階の順に罠を仕掛ける。
順番を間違えると、最悪遥さんに後ろを取られるわ。
【千夜】
絶対に順番は守るのよ。

    • 盗聴されているのを知った上での計算ずくの台詞。こいつやっぱり怖いw
リバーストラップ
  • 仕掛けた罠を逆手に取られ、緑か赤かの運命の二択。
    • 千夜は自分の命を危険に晒してまで芝居を打つ必要があったのだろうか?

【千夜】
……私達を殺そうとしている奴が、ヒントを出すなんて。

先輩の呟きが、耳を掠めた。

憂姫の声
  • 廊下の先でゾンビが液体を撒いたのを見て、口を塞いで逃げろと伝える。時雨だけに。
挙動不審

先輩とこよみは、それぞれ時計を確認していた。
【こよみ】
――別に。
【千夜】
ふふ、私の作った進路予想図――当たったでしょう?

何だか――怪しい。
一瞬だがそんな疑念が頭をよぎる。

残された時雨
  • 眩しい世界にこよみは消えた。そして先輩も血を流し、時雨に秘策の罠の場所を伝えて、防火シャッターの向こうで声を失った。
  • 憂姫を連れて体育館へ。そこで先輩の罠を作動させる。
暴かれた真実

【憂姫】
あなたの目的は、こよみだけだったはずでしょっ!?

【憂姫】
だからあなたに指輪を与えて、その目的達成を手伝ってあげた。

  • 照明に潰された遥は、人形で、広がった赤い液体は絵の具だった。そこに現れた先輩とこよみ。

【千夜】
マネキンは動いていなかった。
良く観察していたら、こんな間違い犯すはずが無かった。
【千夜】
ふふ――。
前に教えたはずよ、本は持ち主以外に力を示さないって。
【千夜】
だから、例え本の力だとしても――特殊な人間以外には、幽霊は見えない。
【千夜】
見える――もし、見えた――としたら。
【千夜】
それは、本の存在を知っていた人物。
【千夜】
そして、遥さんそのものを恐れた人物、それ以外いない。

    • ここでの「幽霊」ってのはゾンビのことではなくて、遥の幻影を見てしまった、死者の声を聞いてしまった、ということなのだろう。

【千夜】
連続自殺事件の時に、ね――。
ワザと自殺ではなく、他殺を疑いたくなるような話を噂に混ぜた。
【千夜】
なんでそんな自身が捕まるリスクを犯してまで、噂を流したのか最初は分からなかった。
でもね、時雨君と出会ってから、その謎が解けたわ……。
【千夜】
他殺として犯人を作り出したかったのでしょ……。
こよみさんという生贄(スケープゴート)を――。

    • この言い方はつまり、千夜は事件当初から犯人が憂姫だと気付いていたということ。

【千夜】
こよみさんに指輪を渡し、それが失敗したら――。
【千夜】
遥さんを騙し、私とこよみさんを消そうとした。

    • やっぱりこよみの机にあった指輪は、憂姫が渡したものだったのか。

【千夜】
時雨君に盗聴器が仕掛けられていたのは、ずっと前から知っていたわ。

    • そんな前から。。

【千夜】
それとね、罠の設置の順番を変えた事、だけど。
【千夜】
罠を設置して回ったのは、時雨君とこよみさんだけよ。
【千夜】
私が何をしていたか?
ふふ――そんなの……。
【憂姫】
そう――見て、いたんですね――。
私が、職員室を抜けて――。
【憂姫】
盗聴器を頼りに後をつけ、罠の改造を行った所を――。
【憂姫】
あなたは、監視カメラで覗いていた……。
【千夜】
私は、トイレに行っていたわ。

ぎゅっと、憂姫は拳を握り締めた。

わなわなと怒りで肩を震わせる。
【千夜】
だから、あなたは子供なのよ。
簡単に人の言葉を信じてしまう。

    • 策士すぎてむかつくw

【こよみ】
お願い――憂姫ちゃん、本当の事を話して――。
【こよみ】
私は別に、憂姫ちゃんの事怒っている訳じゃ――。
【憂姫】
――黙れよ。
【憂姫】
――こよみ。
私はね、アンタのその年上面したところ大嫌いだった――。
【憂姫】
お兄ちゃんがいたから、表面的には仲良くしていたけど。
【憂姫】
アンタの両親が死んだからって、勝手にウチらを家族と思わないでよ……。
【憂姫】
アンタのお節介のせいで、わたし達がどれだけ迷惑してきているか、分かってるの?
【憂姫】
アンタの家族ごっこに付き合わされるのなんて、もう御免なんだよ。

こよみと憂姫のやり取りを眺めながら、横に立つ千夜先輩に声をかける。

大丈夫、こよみならきっと上手くやってくれる――そう信じていた。

だって、こよみは――。

    • こよみがお姉さんであることを、時雨も気付いていたんだな。
  • 真相の推理をする千夜を肯定するこよみ。

【こよみ】
そして、私が止めるしかなかった。
お父さんとお母さんは殺されてしまったし、時雨はショックで動けなくなっていたし――。
【憂姫】
ちょっと――待ちなさいよ!!
さっきから、あんたたち一体何の話をしているのよ――!?
【憂姫】
アンタの両親が死んだから、アンタの頭がオカシクなっただけでしょ――?
【こよみ】
違う。
【こよみ】
いくら私がバカでも、マネキンの事両親だなんて思ったりしないよ。
【こよみ】
――ただね、こんなアブナイ女が隣に住んでいたら――。
【こよみ】
――絶対に……家に上がろうとは思わないでしょ?

【こよみ】
憂姫ちゃん、あなたは昔、私がご飯を作りに来るのは時雨のためって言ってたよね?
あれね――本当は、違うんだよ……。
【こよみ】
憂姫ちゃんが私の事嫌ってたのは知っていたよ、でも……私はそれで構わなかった――。
【こよみ】
時雨と、私と、憂姫ちゃん3人で暮らせれば……それで良かった――。
【こよみ】
私は嫌われたって良い――それで……みんな一緒に暮らせるなら。
【こよみ】
私は――そうやって、自分の家族を守ってきたの――。

【こよみ】
憂姫ちゃんが何で腕と足が不自由なのか知ってる?
あれはね――……。

【憂姫】
アンタ……何を……言ってるのよ――。

憂姫の表情が一瞬で強張る。
腕と足の話はオレたちにとって――最大のタブーだったからだ。

【こよみ】
――私が、全部折ったからだよ。

【こよみ】
あなたが猫を殺して、首ばかり集めていたのは両親も把握していた。
今思えば、その時に治療を受けさせるべきだったと思うよ……。
【こよみ】
憂姫ちゃんが時雨の事を好きなのは、兄……だからじゃないの。
昔からね、時雨の事は好きみたいだったから……。
【こよみ】
あの事件の日の事はきっと記憶に無いだろうけど――。
ううん、私たちが記憶を操作したようなものだから、覚えていてもらっては困るけど――。
【こよみ】
憂姫ちゃんは、時雨を遊びに誘ったの。
でも、時雨はその誘いを断った……。
【こよみ】
子供だったもの、悪気があった訳じゃないと思う。
ただ、年が一つ離れたあなたより、時雨は私と遊びたかっただけ――。
【こよみ】
仲間はずれにしたつもりはなかったけど、あなたはきっと寂しかったんだと思う。
【こよみ】
猫の首を集めていたのも、きっと……空いた心の埋め合わせだった……。
【こよみ】
だからあなたは、簡単に悪い大人に騙されてしまった。

    • なぜこよみは、憂姫が悪い大人に騙されたということを知っているのか。

【こよみ】
私と時雨が部屋で遊んでいると、あなたが入ってきたの。
びっくりしたよ、だって……包丁持ってわめき散らしているんだもん。
【こよみ】
騒ぎを聞いて駆けつけてきたお母さんを、憂姫ちゃんは包丁で刺したの。
ぐさり――って。
【こよみ】
お母さんは、そのまま倒れて赤い泡を吹いてたよ……。
【こよみ】
冷静に包丁を構えなおしている憂姫ちゃんを見て、「ああ、この子はもう普通じゃないんだな」って思ったの――。
【こよみ】
そして――あなたの次の標的は私だった。
【こよみ】
子供の頃はね、憂姫ちゃんの方が私よりケンカ強かったんだよ。
頭も良かったし、本当に私はあなたに勝てるところなんて無かった。
【こよみ】
だから、きっと私はこのまま死ぬんだろう――そう思った。
お父さんが私たちの間に入るまでは――ね。
【こよみ】
あなたとお父さんがもみ合いになっていたから、私は必死になって椅子で殴ったの。
何度も――何度も――憂姫ちゃんの事を……。
【こよみ】
椅子を叩きつけるたびに骨の折れる感触があった。
私は……あの時の――骨が……折れる音だけは――。
【こよみ】
忘れる事が――出来――ないよ……。
【こよみ】
お父さんも死んでしまったけれど、私は時雨と憂姫ちゃんを守ることが出来た……。
【こよみ】
その時に誓ったんだよ。
私が――この家族を守るって……。

【こよみ】
数年間はそれで守れたんだよ。
そして、壊れるのはあっという間だった。
【こよみ】
手足の不自由になったあなたが、人をそそのかして罪を犯すようになってしまうまでは――。
【憂姫】
……う……そ――だ――。
【こよみ】
嘘なんかじゃないよ、憂姫ちゃん……。
【こよみ】
いいえ、ゆうき――。

ゆうき――彼女の本当の名前がその口から出た時、閉ざされた記憶が戻るのを感じた。
悲鳴にならない、呻きのような声が憂姫から漏れる。

やがてソレは嗚咽に代わり、憂姫のか細い喉を震わせる。
オレは――妹の涙する姿を……初めて見たのだった。

彼女の精神は誰よりも強く、粛々と人を殺すマシーンだと思っていた。

だけれど……それは違った。

憂姫はとんでもなく不器用で――そして、オレの事が……好きなだけ――だった。

血の繋がりがある以上、憂姫はオレに対して自分の気持ちを伝える事ができない。
だから――。

オレに――接近する人達を、排除したのだ。
その両腕を……真っ赤に染めながら――。

解散

【一夜】
後始末は生徒会に任せてくださいっ!!
どんなに教師連中がわめこうが、犯人探しなんて絶対にさせませんからっ!!
【一夜】
だって、生徒会は生徒を守るためにあるんですからね♪

    • 良い事言うなあ、半分以上自分のためだと思うけどw
ゆうき

【憂姫】
ねえ、お兄ちゃん――。
【憂姫】
わたし、もう――ダメ――なんだ――。
【時雨】
そんな事――無い。

オレは強く、妹を抱きしめた。

【憂姫】
わたし、多分。
もうあんまり長くは、生きられないと思うんだ。
【憂姫】
こよみも、それは知ってる。
【憂姫】
日に日に呼吸が苦しくなるの、そして体力も落ちている――。

【憂姫】
ねえ、お兄ちゃん。
【憂姫】
わたしって――妹かな――?

オレは頷き、握った彼女の手のひらに、強く力を籠める。

【憂姫】
わたしは――もう、それだけじゃあ――。
【憂姫】
妹じゃ、ダメ……なんだ。

【憂姫】
少し――。
ううん、こよみの話を聞いて、わたしは飛び上がるくらい嬉しかった。
【憂姫】
血の絆は無いけれど、わたしはお兄ちゃんと――。

【憂姫】
ねえ、お兄ちゃん。
私の事、好きって言って欲しい。
【憂姫】
今度は妹としてじゃなく、ちゃんと、言って欲しい。

オレは彼女と改めて向き合うと、望みの言葉を口にする。

そしてそのまま、唇を奪った。

彼女の心はすでに、壊れ掛けていたんだと思う。

憂姫は色々な人を傷つける事でしか、自分の思いを表現できなかった。

心が壊れ、完全な狂人になる事――それを、憂姫はすんでの所で思いとどまった。

そうできていれば、どれだけ楽だっただろう?

今はただ、自分が今まで手に掛けたヒトの数、その重さで――彼女は潰されようとしている。

残された疑問

【憂姫】
ねえ、どうしてエレベーターに詰まっていたものが、硫化水素じゃなかったのかな?

唇を離した憂姫が、ポツリと呟いた。

【憂姫】
あの時、私はお兄ちゃんを殺すつもりだった。
【憂姫】
私よりも生徒会長さんを選んだお兄ちゃんに、憎悪の念を向けていた。
【憂姫】
でも、エレベーターの中身は、硫化水素じゃなかった……。

憂姫はいったい――何を喋っているんだ――?

【憂姫】
ナトリウムもそう。
【憂姫】
わたしは――あんな装置、繋いでいない――。
【憂姫】
千夜先輩は西側半分が、録画だと言っていた。
でも――。
【憂姫】
わたしは確かに、あのハリボテのゾンビが――塩酸をバラ撒くのを見たの――。
【憂姫】
本当はセンサー連動でワンテンポ遅れて作動させて、3階にお兄ちゃん達を誘導させるつもりだった。
【憂姫】
でもゾンビは確かに塩酸を撒いていたし、あの場所は――東側だった。
【憂姫】
一体あの時のハリボテは、誰が操っていたの?
【憂姫】
思えば、最初からオカシイ事ばかりだった。
【憂姫】
――わたしは、いつの間にか指輪持っていたんだよ。
【憂姫】
どうして、わたしはあんなもの――持っていたんだろう?
【憂姫】
どうして、持った瞬間に使い方が分かったんだろう?
【憂姫】
どうして、わたしの場合は警察が動かなかったんだろう?
【憂姫】
黄色い方は、機動隊に囲まれていたのに……。

胸に燻る違和感を、憂姫は言い当てていた。
確かに、心当たりはあるんだ。

妙な事を口に出していた人間を、オレは――一人だけ知っている。

【憂姫】
ねえ、わたしの記憶ってどこに行ったのかな?
【憂姫】
まだお兄ちゃんが、わたしのお兄ちゃんじゃ、無かった頃の――記憶。
【憂姫】
もうさ、全てやり直せないのだから、返してもらったって――いいよね。

【時雨】
こよみの部屋で、憂姫の写真を見つけたんだ。
【時雨】
壁に、掛けられていた。
1枚ずつ、オマエの成長を――ずっと、追っていた。
【時雨】
ヒトはさ、思っていても、言い出せない事――そんなものを、ずっと胸の内に秘めて生きていかなきゃならないのかも知れない。
【時雨】
言いたくても、言えない事。
秘密って、言うんだそうだ――。
【時雨】
どれが正しい選択かは、オレにはもう分からない。

憂姫は潤んだ瞳で、こちらを見上げていた。

【時雨】
ただ――オレは憂姫を、誰にも渡したくない。
【時雨】
失くした記憶に囚われたらダメだ――。
【時雨】
死者の意志に心を引っ張られたら、ダメ――なんだ。

【憂姫】
わたしが――殺した人達……でも?

【時雨】
罪を償うってのは、結局自己満足でしか、無いと思う。
【時雨】
オレは都合の良い人間だ。
憂姫さえ――無事なら、他はどうなって良いとすら――思うんだ。

オレはこんな事を言って――どうしたいんだろうか?

【憂姫】
いつも――そう。
お兄ちゃんは、絶対にわたしを怒らない――。

彼女に、どんな言葉を掛けてもらいたいのだろうか?

【憂姫】
お兄ちゃんが困る顔を見たかった、怒る所が――見たかった――。
【憂姫】
わたしはただ――それだけ……だったのに――。

――もう一度だけ、憂姫の笑顔が見たい――。

ぎゅっとオレのシャツを掴み、身体を寄せる憂姫。

肩が小刻みに震え、その束ねられた二つの髪がさらさらと――たださらさらと――涙といっしょに、解れて落ちた。

オレはいったい、どこで間違ったんだろうか?

知っていれば――。

オレがもっと、こんな結末を迎える前に彼女の想いに気がついていれば――。

もう少しマシな未来が、迎えられたかも知れないのだ。

逆さまの砂時計
  • 夕焼けの屋上。自殺を邪魔された先輩の言葉は、しかし。

【千夜】
あのね、時雨君――。
【千夜】
私の頭痛の原因、分かった気がしたの。

特殊能力
  • 人形も自殺事件もゾンビもクリアした時雨には、寿命を縮めるような外的要因はないはず。しかし時雨の寿命はすごく短い。

【千夜】
とにかく利息が勿体無いわ。
借り替えましょう。
【時雨】
……はい?

    • 言い回しがいちいち面白いんだよなw

エピローグ:意識の下の世界で

お金こそ全て

前借りした時間に対する利息を返すため、銀行にやってきた二人。口座は一夜名義ということで。

【時雨】
千夜は?
【一夜】
今はいませんよ♪

しれっと、この人は恐ろしいことを言う。
深くは聞かないでおこう……。

【一夜】
まあ、何かと邪魔だと感じることが多くなってきましたしね……。
近頃――特に――。

【一夜】
今も……まだ。
恋愛対象として見れませんか――私の事?
【一夜】
時雨君が望むのなら、私は何をされても構わないんですよ――。

先輩はオレの両手を優しく包みながら、甘くささやいた。

【一夜】
ふふふ、冗談ですよ。
昔、振られたことへの仕返しです。
【時雨】
一夜先輩は、巻き戻る前の時間のこと、覚えていたのか?
【一夜】
さあ?
どうでしょうね。

借り替え

【一夜】
時雨君は未来から時間を前借しました。
ですので、そこには当然利息が乗ります。
【一夜】
残債を一括で支払って、その後この銀行で借り換えを行います。

壁面のディスプレイの操作を行った後、先輩はそこに自分の名前を書いた。

【一夜】
……さ、これで時雨君の負債は完済です……。
後は、時雨君の手続きを終わらせれば終了ですよ♪
【一夜】
でも、5分以内に終わらせて下さいね。

【時雨】
随分短いな……。
5分経つと、どうなるんだ?

先輩は答えず、ただニコニコしているだけだ。

【時雨】
……一夜、先輩?

【一夜】
5分経つと私たち……両方死にます。

【時雨】
――っ!!??

【一夜】
借り替えには担保が必要です。
ですので、私の命を担保として差し出しました。

    • 自らの命を差し出してまで、どうして時雨を救うのか?

【一夜】
この世界の中で唯一時間を巻き戻せる、人が使う事を許された魔法――それが夢なんです。
【一夜】
そして……現実世界でその巻き戻しを行う事、これを予知夢と呼んでいます。
【一夜】
時雨君は本と接触した時に、本能的に危険を察知して――時間を巻き戻してしまった。
【一夜】
あなたはそうやって、時間を巻き戻す能力を得た。
【一夜】
それが時雨君の、予知夢という能力ですよ。

最後の夢

【一夜】
ふふ――昔に……いえ、未来でしょうか?
【一夜】
約束しましたよね、また――ここで会いましょうって。

再び目を開くと、そこは夕焼けの広がる屋上だった。

【時雨】
確かに――したよな。
あの時は、少し……腑に落ちなかったけど。

【一夜】
私は出来るだけ、中立な立場でいたかったんです。
例えそれが――どれだけあなたを苦しめる結果に、なったとしても。
【一夜】
便利ですよね、夢って。
どれだけ不思議な事が起こっても、覚めてしまえば――夢だったのだと全て割り切れる。

【時雨】
まだ、寝ているのかな?
【時雨】
そうして時間を逆回転させて、今もまだ夢の中で――嫌な現実から逃げている。

【一夜】
すぐに――目は覚めますよ――。
【一夜】
時雨君は一生分の、夢を見てしまったのですから。
【一夜】
お互い、寿命の残りはあまりないですからね。
【一夜】
今度は気に入らなかったらやり直す、なんてズルは――出来ませんよ?
【一夜】
本当に次やったら――メ!ですからね。

一夜先輩は子供を叱るポーズをしながら、イタズラっぽく微笑んだ。
瞳の淵に、涙を貯めながら……だったけれど。

【時雨】
オレは、これからどうしたらいい?
【時雨】
時間をもう一度巻き戻して、そうしたら――。
【時雨】
失敗は、出来ないんだ。
オレは、どうしたら……。

【一夜】
不安なんですね。
失敗することが――。
【一夜】
でも、失敗なんてそんなの、本人の考え方次第なんですよ?
【一夜】
ちょっとずつ時雨君は、成長していけばいい。
大丈夫、例えどうしようも無くなった時でも、あなたの周りの人が助けてくれる。
【一夜】
でも、もし――最後に一つだけ、やり残した事があるとするなら……。
【一夜】
ねえ、時雨君――。
【一夜】
あなたは一番最初に、千夜に会った日の事を覚えていますか?
彼女は夕焼けのあの日、あなたの前に現れた。
【一夜】
そして彼女はいったい、誰を殺したかったのか?
【一夜】
彼女の目的――。
【一夜】
千夜が最後に、あなたに語りかけた言葉。
【一夜】
それは、名前を呼んで欲しい、だったはず。
【一夜】
次に出会った時に、本当の私の名前を呼んで欲しい――。
【一夜】
それは時雨君にしか、出来ない事。
【一夜】
でもあなたは――間違った名前――を呼んでしまった。
【一夜】
千夜の今までの努力、最後の命を振り絞ってまで果たした責務を、あなたは無駄にしてしまった。

【時雨】
ちょっと、待てよ――!?
【一夜】
時雨君は、私の名前をまだ、思い出せないのですか?
【時雨】
――オレは、一夜先輩の言っている事が、全然……。
【一夜】
ねえ、時雨君――あなたはもしかして、私がまだ、一夜という名前だと思っているのですか?
【時雨】
あなたは――。
【一夜】
ふふ、時間切れです。
続きはね、新しい世界で紡ぎましょう。
【一夜】
それでは始めましょうか。
【一夜】
もう一度だけ――同じ時を――。
【一夜】
後悔だけは絶対しないで下さいね、約束ですよ。
時雨君――。

ああ。
そう、オレは頷く。

もう、世界は一度しか回る事しか出来ないから……。

だから――。

オレはもう一度……。

不器用だけど――転んでしまうかもしれないけれど――。

――もう一度だけ、歩き始めた。

最後の時間はそうやって、ゆっくりと動き出す。

今度は――彼女の腕をしっかりと、捕まえられるだろうか――?

    • この部分と最後の羽化予告で、「クリアしたー」っていう感慨がもう一気にひっくり返される。羽化編への期待は高まるばかり。作者さん次回作のハードル上げすぎだろうww