NOeSIS-嘘を吐いた記憶の物語- こよみの章:白烏

最初見たときは「はくちょう」だと思ってたんだけど「しろがらす」なのね。

こよみの章:白烏

彼女の世界
  • 今から5年前、小学6年の暑い日。彼女の両親は、マネキン人形にしか見えなかった。
    • 小学生の彼女にとって、この世界はどんなに残酷で、辛いものだったのだろう。。
朝の時間
  • こよみに起こされ、テスト勉強の時間を確保するため、いつもより30分程度早く、憂姫よりも早く家を出た。
  • 時間は4月。桜の花は散った後。
    • まだ遥が事件を起こす前、遥が同級生を恨む前なんだろう。
遥との出会い

【こよみ】
ああ、遥ってすっごい猫好きだもんね〜。
飼ってるんだっけ?
【遥】
飼ってるよ。
でも、どうして分かったの?

    • まだ猫は生きている時の会話だと思いたい。そうじゃないと凄く怖い。

【遥】
こよみは私の大切な友達だよ。
だから、分かるんだ――。

――君、幼馴染なんだから、気づいているんでしょ?――

    • それはもちろんこよみの恋心なんかじゃなくて、人形の話。
お昼ごはん
  • 遥にだけ見える何か。

件名:さっきの事だけど
本文:人形、見たことある?

放課後
  • 遥を見ている人形。顔がのっぺりしてる、赤い、マネキン。
  • 普通じゃない相談に乗ってくれるのは生徒会長しかいない。

【遥】
恋愛の相談に、すごく良く乗ってくれるんだ。
【時雨】
あの人形、ストーカーなのかよ……。

    • 小気味良いテンポに読み飛ばしそうだけど、「あの」っていう日本語から、時雨が過去の人形と現在の人形を同一視していることが読み取れる。
生徒会長を捜せ
  • なぜか部活に向かったはずのこよみと遭遇。
屋上にて
  • 再びの「台無し」発言。

【生徒会長】
私はこれから自殺しようと思っていた。
そんな晴れやかな気分だったのに、あなたが現れたせいで台無しよ――。

    • どうして4月に自殺しようとしているのか?ひょっとして、もう5月からの先輩は全て一夜なのか??

【生徒会長】
幽霊や化け物なんて、住む世界が違うモノじゃないっ。
私は人間だもの、関わり合いになんてなりたくないわ――。

    • 彼女は自分を人間だと認識している。

【生徒会長】
私はね、人の寿命が見えるの。
【生徒会長】
あなた――もうすぐ死ぬわ……。

【生徒会長】
ええ――そうよ、死ぬのはアナタ。

――人形に、殺されるの――

    • 彼女には一体何が見えているのか?時雨の巻き戻した時間?
憂姫に相談
  • 内申点の良かった憂姫は、受験のときから生徒会に勧誘されていたという。

【憂姫】
お兄ちゃんに言った、自殺するつもりだったって言葉……。
わたしね、少し――分かるんだ。
【憂姫】
優しくて頼りになる生徒会長――そういうキャラクターに、あの人は、疲れてしまったのかも知れない。

【時雨】
おかげでそんなのばっかりに絡まれて――困ってる。
マトモなのは憂姫だけだぞ。
【憂姫】
あ、うん――。
あり……がと……。

    • 彼女が言葉を濁す理由は。。
翌朝

いつものようにココアを片手に、分厚い本を読む憂姫。
昨日はこいつと語らっていたから、寝る時間が遅れたのだ。

でも、彼女はいつもと同じように早起きし、本を読む余裕すら見せている。
とても同じ血が流れているとは、思えなかった。

    • 真実を知っていると、こんな日常が、少し重い。
通学路

【こよみ】
若いうちしか怒られないんだよ、知ってた――?
【こよみ】
年をとるとね、そういう駄目な部分ってさ、一目で分かる場所に出てくるんだって。
そうするともう――社会からはじき出されて、いらない人間の烙印を押されちゃうの。

やめろ、やめてくれ。。。

【時雨】
どうしたんだこよみ――?
顔が赤いぞ? 変なものでも食べて、おなかを壊したのか?

鉄の胃袋を持つこよみだから、あまりそれは考えられなかった。
こよみを暴走させる簡単な条件もあるのだが、今の季節ではそれも考えられない。

    • 簡単な条件とやらは、羽化編への布石だろうか?と思ったけど、たぶん少し後に出てくる虫の話だな。
邂逅

【千夜】
そう、私は一夜ではない。
【千夜】
千夜(ちや)よ――。

    • あっさり言ったなあ。
生徒会室

【千夜】
ココはね――あったかもしれない、こうなるはずだったかもしれない未来が――感じられる場所。
だからかしら――妙に――落ち着くのは……。

何故だろうか?
先輩が話した一瞬に、心がそわそわとする違和感を覚えた。

あったかもしれない未来――その言葉が、オレの過去の記憶を優しく、くすぐったのだろうか?

    • それは予知夢のことか、それとも夢見ることしか叶わない、こよみの幸せな人生だろうか。

【千夜】
――幽霊よ、アレ――。

――気がついているんでしょ?――

――こよみさんを追いかける、人形の正体――

【千夜】
あなた、なんてものを呼び寄せたのかしら?
【千夜】
あれだけ負のエネルギーを溜め込んでいるヤツなんて、初めてよ――。
【千夜】
時雨君、あなた多分死ぬわ――。

    • 人形は時雨の呼び寄せたもの?
第一回こよみちゃん救出作戦会議

第一回、こよみちゃん救出作戦会議は、波乱に満ちた船出だった。

まず――夕飯を作っているこよみに聞かれては、ならない。

次に――微妙に憂姫のテンションが上がっていたのだ。

    • 憂姫のテンションが上がっていたのはなぜ??遥が罠に落ちた日だったり??
こよみデコピン
  • 音速を超えた衝撃波が花瓶を割る。

千夜先輩の唇ツンは甘んじて受けるが、こよみのデコピンは最悪頭蓋骨が砕けるおそれがある。

    • 唇ツンとか一体いつされたよ!?

こよみは虫全般が苦手だった。
悲鳴を上げながら殺虫剤を撒き散らすので、それだけでこの家は一騒動になる。

連続通り魔事件
  • 今年に入ってから続く通り魔事件。手口は複数あるらしく組織的な犯行という見方もある。そして重要なのは、通り魔が金品ではなく命を狙っているということ。
  • こよみと憂姫は箸の持ち方が同じ。
    • 姉妹。。
電話での誤解

【時雨】
遥はオレのタイプじゃねーよ。
オレはもっと、お淑やかなお嬢様がいいんだ。

【時雨】
夜はツリ目のツンツンキャラじゃないと、嫌だからなっ!!

    • 最初読んでるときは単なるジョークだと思って笑ってたのさ。。

【時雨】
オレは――こよみを守りたいんだ。

  • すれ違う、人形の話と、恋の話。
赤い思い出
  • 血溜まりの中を歩くこよみ。
朝の時間

妹の憂姫は朝から分厚い本を眺めている。
著者はヤカンみたいな外人の名前で、本のタイトルもエクレアに響きが似たカタカナ3文字だった。

唐突な告白

【こよみ】
何――?
ジョレイって……。
【時雨】
オマエにとりついてる幽霊だよ。
【時雨】
昨日の夜、電話で散々説明したろ。

  • 電信柱を体当たりで倒した後、起き上がったこよみはお淑やかなお嬢様になっていた。

【憂姫】
こよみっ。
お願いだから正気を取り戻してよっ。
【こよみ】
こよみじゃないよ――憂姫――。

【こよみ】
私はね、憂姫――。
お姉ちゃんだよ――。

    • この段階では単なるコメディなんだけど、どういう気持ちでこれを言ったのか想像できない。
消えた人形
  • 今日は人形がいないと言う遥。
千夜に相談
  • こよみの両親が人形だった、と千夜に伝える。

【千夜】
――こよみさんはね、あったかも知れない世界の中で――生きているの。

【千夜】
そうなっていたかも知れない世界。
それはつまり――こよみさんの夢の中、という事。
【千夜】
今現在のこよみさんは――。
時雨君が大切な人で、憂姫さんが妹の……役として存在している。
【千夜】
それは多分、いつも彼女が描いていた理想の世界――だったのでは、ないのかしら?

【千夜】
何故こよみさんを見つめていたのが、人形だったのか……。

――彼女の過去に降りかかった事実を考えれば、当然よね――

夜の電話

【時雨】
オマエが人形だ――。
【時雨】
理想の姿じゃない、オレの好みを具現化したものでもない。
人形の姿は――こよみの秘密を守るためだったんだろう――?
【時雨】
乗っ取ったんだ、オマエは。
こよみの――身体を……。
【時雨】
こよみの理想は、オレと家族ごっこを続ける事だ。
もし自分の感情が溢れて、オレに対して隠し事を続けられなくなったとしたら――。
【時雨】
だから、こよみが何かを言い出す前に――身体を乗っ取り――口を封じた。
【時雨】
教えてくれ、こよみ。
オマエの秘密は一体……なんなんだ?

  • 時雨の考えは正しいのか?間違っているのか?それはわからないが、こよみは元のこよみに戻った。

――オレは真実よりも、平穏を選んだ。

仮面をつけて、お互いの今をやり過ごす……。

翌朝

【憂姫】
こよみが私に言った、お姉ちゃんだよ――って意味。
私もまあ――そう呼んであげたっていいかな――って。

朝の時間
  • こよみと話をしながら人形のことを考えている時雨。

オレが人形の立場なら、きっと仲間が欲しい。

こよみの恥ずかしがる顔――。

その裏で、赤いマネキンが手招きしているように思えた――。

月と地球

【千夜】
順番が――逆――なのよ。
【千夜】
あなたの想いが届けば、自然とこよみさんとの距離は近づく……。
【千夜】
でもね――時雨君はその逆――を、やろうとしている。
【千夜】
こよみさんに近づいてから、想いを届けようなんて――。
どうして――そんな――。

千夜と一夜

千夜先輩は強制的に、オレの記憶を抜き取る事が出来る。
でもこの人は――。

――自らの口で、思っている事を語らせてしまうような。
そんな、不思議と信頼を寄せてしまうような、暖かい物腰なのだ。

千夜と一夜、北風と太陽のおとぎ話のような、アベコベのキャラクター。

しかし旅人からコートを脱がせようとする、目的は――同じ――なのだ。

言い回しが絶妙だよなあ。

【一夜】
秘密とは、不幸も、危うさも――あなた達だけが共有できる――素敵な高物に変えてしまう――。
【一夜】
例えそのせいで、時雨君が命を落とすとしても――あなたはそれを守り通さなければなりません。

【一夜】
自分の気持ちを、ちゃんと伝えるんですよっ。
Vas−y〜♪

    • フランス語使うようになったな。
こよみへの告白

【時雨】
ずっと昔から、好きなヤツがいるんだ。

【時雨】
なんかオマエから勘違いされてるみたいだから、ハッキリ言うぞ。
【時雨】
オレは――――――――。

  • そこでこよみが倒れた。ということは、伝えたのだろう。
喜ぶこよみ

暖かい吐息がオレの背中をくすぐり、彼女が微かに――唇を動かしているのが感じられた。

――もう誰にも渡さない――

風のそよぐような、小さくて殆ど聞き取れない声だったと思う。

――ワタシニモ ナカマガ デキタ――

木の虚が風で唸るような、それは――。

人形の喉から搾り出される――しわがれた声だった。

憂姫

【憂姫】
人形の事なんて、関係ない。
こよみとお兄ちゃんは、お互いが傷つかないように上辺をなぞっているだけ――。
【憂姫】
いい加減素直に――なろうよ――。
好きなんでしょ、こよみの――事?
【時雨】
――ああ。

【憂姫】
お兄ちゃんが本当に望んでいるのものは、オママゴトなんかじゃない。
【憂姫】
そう思うのなら、なおさら――自分の気持ちに嘘を吐いたらダメだよ。

続く悪夢
こよみの朝
  • 時雨が飛び起きたせいでこよみのスカートが破れた。ついでに時雨のワキチラ趣味が暴露されたw

確かに――飛び起きたときには、こよみはオレを避けようとして瞬時に立ち上がっていた。

その時……何かにスカートを引っ掛けたのだろうか?

【時雨】
でも変だな、オレが飛び起きる前に――布の裂ける音が聞こえたぞ――。

そう、ワンテンポ――早かったはずだった。

    • 何の布石?

【こよみ】
ダメだよ、生活費は大切にしないとっ。
時雨達の家計管理は、私が一任されているんだから。

――聞き逃していた。

今までの長い歳月の中、一度として疑問に思わなかった――。

――こよみは何故、オレ達の家計を握っているのだ――?

こよみの家の生活費は……オレの両親が出しているのではないか?

その見返りとして、彼女は――我が家の家事をこなしている。

一番しっくりとくる筋書きだった。

遥の視線
  • こよみのスカートが破けたことを知って氷のように冷たくなった遥の目つき。周囲に撒き散らされたのは、憎悪。
    • 遥の猫が死んだことと何か関係が??

【時雨】
なんだよ、部長が忙しいんじゃ――引き止められないじゃないか。
【遥】
ああ、急に忙しくなってしまったんだよ。
【遥】
部活の方で少し――カタをつけなきゃならないことが、起こったんだ。
【遥】
部長の私はそれで、大忙しさ。
【遥】
でも――こよみには……。
【遥】
部長権限で、罰ゲームでも言い渡そうかな?
【遥】
スカートが破けてるのは公序良俗違反。
今日は部活出席停止――とかね。

【遥】
こよみとデートして来いって言っているんだよ。

    • 遥の真意が読めない。この時点ではこよみのことをまだ親友だと思っているのだろうか?

【遥】
時雨君――あのさ。
こよみが――死んだら、悲しい?

【時雨】
こよみが死んだら、オレはきっと落ち込む。
いや……落ち込むどころじゃ済まないかも知れない。
【時雨】
だから、そんな結末――全力で防いでみせる。
【遥】
――良く分かった。
時雨君の……決意。
【遥】
だけど、友人としてね――言うよ。
【遥】
いつ死んでも悔いの無いように、全力で遊ぶんだよ――。
【遥】
こよみを助けようとするあまり、時雨君は――。
命を――落としてしまうかもしれない――。
【時雨】
何故――そんな事を言うんだ――?
【遥】
……。

遥は口を割らなかった。
俯き、床に視線を落としている。

いつもに比べて少し、彼女の周りの空気は――冷たい――そんな気がした。

    • やっぱり猫の事件が起こってしまったのか。。
こよみの人形
  • 人形を追い払う必要はないと言い切る千夜。

【千夜】
こよみさんは人形に取り憑かれた訳ではない、ただ過去が戻っただけ――。
【千夜】
――人形は、もう一体いたのでしょう?
【千夜】
時雨君――今度はあなたの番よ……。

【千夜】
最後の良心とは――己の罪を告白するものよ。
【時雨】
まるでこよみが過去に、罪を犯したみたいな言い方じゃねーか。
【千夜】
――時雨君、あなたもその時こよみさんを止めなかった。
【千夜】
あなたも同罪。
【千夜】
だから……人形は二体いる。

    • 千夜に見えた時雨の記憶は、改変後のものなのか、それとも改変前の真実なのか?
ショッピングデート
  • 彼女のことを好きになるほど、嘘の関係が嫌になる。だから、昔の話をした。

【こよみ】
――何を言ってるの、時雨――?
【こよみ】
小さい頃は、毎日――私の家で一緒に遊んでいたよ――。

【時雨】
行った事があるのは5年前、その一度きりだけだ……。
【こよみ】
5年前――?
時雨は、もっと昔から――遊びに来ていたよ。
【こよみ】
たくさん私の家に――遊びに来ていたんだよ。

    • いったいどっちが真実なんだろう?仮にこっちが真実だったとしても、時雨に記憶を取り戻させるヒントを与えるのはこよみにとって都合が悪いはず。
憂姫の記憶
  • 憂姫はこよみの家に上がったことはないと言う。

【憂姫】
ううん、ないよ。
小学生のうちは、あまり歩けなかったし――。
【憂姫】
それ以前は――記憶が無いから、分からないや……。

  • 憂姫はこよみの両親が人形であることも知っていた。というか時雨が話してたw

【時雨】
――オレはこよみの家に上がった事って――あったか?
【憂姫】
一度だけ、あったと思う。

千夜に相談

【千夜】
そう――。
じゃあ、時雨君はどっちが正しいと思うの?
【時雨】
なんでそうなるんだよ……オレは、分からないから聞いているのに。
【千夜】
まず、私はあなたの考えが聞きたいわ――。
何か人から聞きたい時はね、まず自分の意見を述べるものよ……。
【千夜】
でもね、まさか……自分ではっきり決断が下せないから――。人の口から言わせようとしているんじゃあ――ないでしょうね?

――図星だった。

【千夜】
――それじゃあ、こよみさんが嘘を吐いている事になるわ。
時雨君の恋人は嘘吐きみたいよ――どうするつもり?
【時雨】
嘘吐き――とかじゃあ、ないだろ。
思い違いくらい……誰にだってある――。
【千夜】
ふふ――最後までこよみさんを信じているのね。
いいわ、嘘吐きのパラドックスの本当の意味を教えてあげる。
【千夜】
これはね、言葉通りに受け取るな、という事なのよ。
だから――こよみさんは嘘なんて吐いていない――。

【千夜】
こよみさんの家にはね――。
あなたが何度も家に遊びに来ていた事にしないと困る――「何か」があるのよ。
【千夜】
憂姫さんがあなたに伝えたかった事、――こよみさんの事を信じるな――じゃあ、ないかしら。

彼女の家へ

【こよみ】
今日はさ――私の家で、ご飯……食べようよ。

追憶

あのうるさく鳴くミンミンゼミの鳴き声を、オレは忘れる事は無いだろう。

彼女の両親

ダイニングに据えられた椅子に目を向けると、4つある椅子の2つだけ――埃が積もっていなかった。

2つ??

【こよみ】
いつも料理は、時雨の家で作っちゃうからさ。
ガスコンロとか――着くかな?

カチカチとスイッチを捻り、着火を確認するこよみ。
コンロが正常に着くのを確認すると、得意げに微笑んだ。

――両親がちゃんと帰ってくるという言葉と矛盾する事に、彼女は気がついているのだろうか?

捜索
  • こよみが料理の材料を買いに出た20分で、家の中を捜索する。

壁掛けのコルクボードは、幼少からのオレとこよみの写真で、埋め尽くされていた。

そこには、こよみと憂姫が仲良く映る写真があった。

小学校に上がる前までは、そんな写真ばかりなのだ。

しかも、おそろいの服まで着て――。

小学生も高学年に入ると、ぴったり寄り添うオレとこよみから憂姫の姿は、少し離れ始めていた。

その立ち位置は中学、高校と徐々に離れていった……憂姫の映る位置だけ、少しずつ端へ端へと移動していたのだ。

コルクボードの下方には、憂姫の成長だけを追った写真が並べられていた。

こよみが彼女の事を、オレと同じ大切な幼馴染として見てくれている様で、少し――嬉しかった。

その成長の記録、オレのは無かったけど。

憂姫だけが写された写真が、定点観測的に並べられている。

最新のものはつい先日、憂姫が高校の入学式の時のものだった。

桜の木の下で、彼女が少しはにかんだ笑顔を浮かべている。

その写真の下にはピンクの文字で――mon ange――と書かれていた。

    • 「私の天使」。彼女はずっと憂姫のお姉ちゃんだった。
  • 時雨が彼女の机から見つけたのは、赤い宝石が台座に収まった銀の指輪。赤い指輪。そこで彼女に見つかった。彼女は、その指輪を、時雨の薬指にはめた。
    • なぜ指輪がこよみの元に?遥が既に彼女に渡していたのか?

【こよみ】
大好きだよ――時雨――。

こよみは、オレの腕の中にあった。

そしてオレは、世界で一番彼女の事が――好きだった――。

人形
  • 窓の外から覗く人形。人形に怯える時雨の元にかかってきた先輩からの電話。彼女のアドバイスは一つだけ。「――お姫様を、信じなさい――。」
    • 指輪が見せている??
  • こよみに過去の話を聞くと、時雨は小学校の低学年くらいから遊びに来ていたと言う。

オレはラジオ体操に連れて行かれた、あの暑い日の朝――その時にこよみの家に上がったのだと思っていた。

しかし、家に上がった記憶の中に残るセミの音は、ミンミンゼミでは無かったのだ。

ウィーヨーウィーヨーと、特徴的な鳴き声のあのセミはツクツクホーシで、夏の終わりに鳴くものだった。

どこか記憶に、欠落がある。
こよみに手を引かれてラジオ体操に行った日から、彼女の家を尋ねたのは――日数的に開きがあったのだ。

その開きのどこかで、オレは……彼女が両親を手にかけるのを――目撃している。

5年前の夏――。
憂姫が事故に遭い、その自由を失った日――。

そして、オレがこよみに――恐怖心を抱いた日でもある。

人形の部屋へ

人形が、階段を上り終えた。
音は、オレのすぐ後ろに迫ってきていた。

人形が近づく前に、本体を破壊しなければならない。
そうしなければ、呪いがオレ達を――憑き殺す。

  • 人形を破壊してBAD END。冷蔵庫の中には、両手足が切断され、四角形になった時雨、の死体。彼はこよみの事を思って涙を零すのだ。

【こよみ】
私の知っている時雨は、絶対にこんな残酷な事しないよ……。
【こよみ】
だから――オマエは――。
【こよみ】
オマエは――偽物の、時雨なんだ……。

    • 偽物だと思った割には、死体を保存しているんだから、別に本当に偽物だと考えた訳ではないんだろう。きっと単なる歪みの言葉。
お姫様を信じて

【こよみ】
お願い……。
【こよみ】
分かって――いるから――。
【こよみ】
パパとママが人形でしかないなんて――。
【こよみ】
そんなの……。
分かって――いるから――。
【こよみ】
でも、この二人と一緒に暮らしてきたの――。
【こよみ】
もしこの両親が人形だと認めてしまったら……。
私は一人になっちゃう。
【こよみ】
ずっとずっと昔から、一人ぼっちだった事に、なっちゃう。
【こよみ】
時雨にはただの人形にしか見えなくても……。
私には――。
【こよみ】
私にとっては――。
【こよみ】
この世でたった二人の――両親なのッッッ!!!

【時雨】
こよみは一人じゃねぇ――ッッッ!!!!

引き金を引かれたように、叫んでいた。

【時雨】
オレが――ついてる。
どうしてオマエはそうやって、いつもいつも一人で抱え込むんだよッッッ。
【時雨】
そんな事したら、一番辛いのはこよみじゃねーかよっ。
【時雨】
オレはこよみの事が、世界で――宇宙で一番好きなんだ。
考える事バカばっかりだけどよ、オレは――。
【時雨】
絶対にこよみを守る――そう、決めたんだ。
【時雨】
誰にもこよみを不幸にさせやしない、そう、決めたんだ。
そう――誰にも、どんな事があっても、だ。

  • 今は時雨がこよみの支えになれるから、今までこよみを支えてきた人形たちは、もう存在する必要がない。

左手が妙に、熱を帯びていた。
視線を落とすと、指輪が――赤く発光している――。

その暖かい発光とシンクロするように、人形は消えたり現れたりを繰り返していた。

それは巣立つ雛を眺める親鳥のように……。
満足げな表情をオレに向ける、人形。

人形はオレの肩にぽんと手を置くと、煙のように――消えていった――。
こよみは、もう大丈夫なんだ。
オレが支えてやれば、コイツは――もう――。

    • 赤い指輪??
こよみの語る真実?
  • こよみの両親は碌な人間ではなかったために、こよみと時雨の目の前で、殺されてしまった。
    • どこまでが本当の話なんだろう?

幼いこよみは――とても冷たい瞳で、倒れた……自分の父親と母親を眺めていた。

きりっと唇は閉じ、次の瞬間彼女は走り出す。

雷鳴――それと変わらない速度で、彼女は駆けていた。

腕を振り下ろす……。
か細い悲鳴が、その後に続いた。

骨の折れる音、肉の飛び散る音、そして後に続く――女の悲鳴――。

    • 時雨の記憶の中の描写は、おそらく真実のものだろう。悲鳴を上げたのは、憂姫。
千夜の問

【千夜】
ああ、そうそう。
忘れるところだった。
【千夜】
私はね、探しものをしていたの。

――何か、家の中で身に着けるものを拾わなかった――?

先輩の問いに、それは失くしてしまったと答える。

【千夜】
そう――それは、残念だったわ。
――でもね、「それ」のおかげで時雨君はきっと――助かったのよ――。

……不思議だった。
先輩はどうして、指輪に助けられた事を知っているのだろう?

    • 赤い本は不幸を呼ぶ本ではなかったのか?千夜の言う「それ」とは指輪のことではないのではないか?

そしてそのまま幸せな、ハッピーエンド。